亮の葬式は、月曜日に行われた。学校は平常通り行われる事になったが、康裕と智は許可を貰って式場に足を運んだ。二人はゆっくりと手を合わせ、亮の母親に挨拶をすると、帰りの電車に乗り込んだ。空いている席に腰かけ、しばらく二人ともずっと続いている田んぼを眺めていた。
三駅ほど過ぎた後に、一人の中学生が向かいの席に座った。なんとなくその様子を見ていた康裕は、驚いて自分の目を疑った。その少年は、康裕だった。いや、康裕に瓜二つな、誰かだった。いつの間にか同じ車両に乗っていた乗客は誰一人としていなくなり、そこには康裕とその少年、そして智の三人だけになっていた。
智は、少年に全く気付かないようで、窓の外で流れている田んぼの様子をただぼーっと見ていた。康裕も、なるべく目を逸らしていたが、それでも勝手にそちらの方を見てしまった。
「俺は康裕じゃないよ。」
不意にその少年が康裕にむかって語りかけた。
「え……」
「夢によく出てくるのは、康裕じゃないんだ。亮君を救える可能性があったのは、新井康裕だけだった。でも、あと少しだけ時間が足りなかったんだよ。」
そう続けると、少年は席を立ち上がり隣の車両に歩いていった。
「おい!」
立ち上がり、大声でその少年を呼び止めたが、その少年は既にいなくなっていた。首をかしげ席に座り込むと、
「どうしんたんだよ、急に大声出して立ち上がって。」
と、智が尋ねた。周りを見ると、電車の座席には、乗ってきた時と同じように乗客が座っていた。
「今向かいに座ってた奴に、話を聞こうと思ったんだ。聞いただろ? 俺の名前を知ってたし、亮が死んだことも知ってたんだ。時間がどうとか言ってた。」
と、康裕が落ちつかないままに言うと、智は不思議そうな顔をして言った。
「向かいの席はさっきからあの人だろ。それに、お前、今まで寝てたんだぞ。」
智があごでしゃくった先には、優しそうなおばあさんが一人座っていた。
康裕は、その不思議な夢を忘れることができなかった。それ以前に、それが夢であったことさえ信じることができなかったのだ。
そして、康裕は思い出した。いや、思い出したというより、急に頭に流れ込んできたと言った方が正しいのかもしれない。鳴り止まない鐘の音。襲い来る激しい頭痛。駅の屋上から飛び降りようとする自分。それと同じようにして死んでいった親友。さっきの少年の言葉。そして、夢の中で聞いた言葉。
「お前なら、何とかできたかもな。」
康裕は考えを巡らす。始まりは、教室と、鳴り止まない鐘だったこと。自分が見ている夢が、何らかの意味を持ってしまっていること。何か自分以外の存在、夢の中で自分自身だと思い込んでいた存在、そして恐らくは電車の中に現われたあの少年が、自分の中で何かを指し示していること。そして、夢と現実は、徐々に近づいているということ――
――俺は何かをしなければならないのかもしれない。康裕が出しそのた小さな考えは、やがて大きな不安感に変わり、康裕の背中にのしかかった。