幾日か過ぎた。特にする事も無く、ぼーっと川を眺めていると、急に視線を感じた。見ると、そこにはあの時の女の子がいた。じっとこっちを見ていたが、俺が目を合わせると、驚いたのかパッと川のほうを向いた。
 「君、何日か前ここに来ただろ。覚えてるよ。」
笑顔で話しかけてみる。すると、その子はまた俺と目を合わせて言った。
 「この橋の下で暮らしてるんですか?」
 「ああ、そうだよ。驚いた? 13歳のガキがこんな所にいて。」
 「13歳? 一人で住んでるんですか?」
思いの外食い付いたので、俺はそこまで歩いていった。少女は動かなかった。気が強いのか、それとも俺を理解してくれているのか。
 「そう。俺はここに一人でいる。不便もしてないし、きっと慣れてくれば意外と快適。ここ以外の生活を覚えてはないけどね。」
 「寂しかったり、人をうらやましく思ったりしないんですか?」
 「ああ、無いな。でも、自分がどんな生い立ちなのか気になることがたまにあるかな。」
色々聞いてくる度俺は真面目に答えた。こんなまともな会話をしたのは久しぶりだった。まあ、多分この年で橋の下に住んでる事に、少し興味があったんだろう。
 一通り聞き終わった頃、女の子は言った。
 「あ、そうだ。私、胡桃って言います。13歳です。」
俺の読みはどうやら当たっていたらしい。同い年だったか。
 「こんなホームレスみたいな奴に名前とか教えちゃって良いの?」
 「別に…… 私は君の事をホームレスだなんて思ってません。むしろ強い生き方だしカッコいいと思います。」
驚いた。今の時代にこんな奴もいるんだ。こんな性格今まで会ったことがない。もっとも、出会いなんて大体、いつも来るおじさんの集まりばかりだったけど。
 「じゃあ、もう夜近いんで帰りますね。」
 「ああ。気をつけて帰れよ。あと、その性格、大事にしなよ。」
 「へへ、分かりました。それじゃっ!」
 橋の下で生活してる俺と、家も家族もちゃんとあるお嬢さんが会話できるようになる。しかも、あんなに短期間で。こんなこともあるんだな。一生まともな会話なんてできないんだろうと思ってたけど、人生まだ捨てたもんじゃないのかもな。