その日は雨が降っていた。それもただの雨じゃない。大雨。嵐。俺は橋の下で寒さから身体を守るため、陰に身体を隠しながら、考え事をしていた。
 (このままじゃ明日くらいには洪水でここも無理か……)
自然には逆らえない。このまま降り続くようなら、明日の朝には最低限の持ち物、傘とビニールシート、それから非常食をもってここから脱出しよう。重くて丈夫なものは水位が下がってから取りに来ればいい。流されていたら下流に拾いに行けばいい。
 川の勢いはどんどん強くなる。暴風と雷雨は今までにないほど暴れていた。今は耐えるしかない。今晩は眠っている暇も無さそうだ。
 そんな時、ふと一つの考えが浮かんできた。胡桃は、胡桃はどうしているだろうか。まさか今日に限って来ることは無いだろう。だけど、確か親父さんが死んだのは雨の日だと言っていた。きっとこんな豪雨だったはずだ。トラウマに負けてはいないだろうか。最悪の出来事が蘇っては来ないだろうか。ふと不安な気持ちが頭をよぎると、それは徐々にリアルで悪い方向へと進んでいった。
 突然体が吹き飛ばされそうになる。俺は全身の力を振り絞って足を踏ん張る。しかし、風に負けしりもちをついた。そのまま転がっていきそうになる。なんとか体勢を立て直し、立ち上がろうとするが、それは不可能だと悟り、四つんばいになって元いた場所に戻る。これ以上立ち上がるのは危険だと思った。そのまま風がおさまるのを待つ。空が光り、音が響く。嫌な予感がする。その予感は自分に対するものではなかった。自分以外の誰か。人の事を考えた事なんか無い俺には、それは分からなかった。
 幸運なことに、数時間後風はやみ、ひどい雷雨だけが残った。俺にはこれで十分だ。今日眠ることができる。明日への充電ができる。その瞬間、ふっと力が抜けた。電池切れらしい。ビニールシートを身体にかぶせ、俺は雨の中今日の活動を終えた。